タウトが日本に残した唯一の遺産である「旧日向家熱海別邸」は国指定の重要文化財であり、DOCOMOMO100選にも名を連ねる名建築であることに疑問の余地はない。
しかしタウトとともに日向邸建設に携わった日本人にも光が注がれなければならない。そこには施主の日向氏、昭和を代表する建築家の一人である吉田鉄郎氏、そして名人とも言うべき宮大工の佐々木嘉平氏がいる。佐々木は1971年に黄綬褒章を受賞されている。
佐々木 (1889年~ 1983年)の技は、正福寺地蔵堂(東村山市、国宝)の復元、円融寺本堂(目黒区、重要文化財)の復元等で見ることができる。そこを訪れることを強くお薦めしたい。なんとも言えない勾配にうっとりとし、いつまでも去りがたい気持ちになる。

日向邸の奥に位置する和風客間にじっくりと目を注ぐと、見事なまでに均整のとれた細部の数々にまさに圧倒されてしまう。ドイツ人タウトのイデーを名工佐々木の技が形にしていったと言うべきであろう。
昨年、タウトと佐々木の関わりを少しでも知りたいと思い、嘉平氏のご子息である功一氏、お孫さんの健氏をお訪ねした。『日本 タウトの日記』(岩波書店)には書かれていないことを知ることができ、たいへん有意義なお話を伺うことができた。お二人に感謝の気持ち一杯で辞去したことを想い出す。